椅子研究#4 アーツアンドクラフツ運動 

アーツアンドクラフツ運動

 

アーツアンドクラフツ運動は1880年代からはじまった、イギリスの詩人、思想家、デザイナーであるウィリアム・モリスが主導したデザイン運動である。美術工芸運動ともいう。ヴィクトリア朝時代、産業革命の結果とした大量生産による、安価なしかし粗悪な商品があふれていた。モリスはこうした状況を批判し、中世の手仕事にかえり生活と芸術を統一することを主張した。彼はモリス商会を設立し、装飾された書籍(ケルムスコット・プレス)やインテリア製品などを製作した。モリス商会の製品自体は結局高価なものになってしまい、裕福な階層にしか使えなかったという批判もある。しかし、生活と芸術を一致させようとしたモリスの思想は各国にも大きな刺激を与え、アールヌーボー(フランス)、ウィーン分離派、ユーゲント・シュティール(ドイツ)、民芸運動(日本)など各国の美術運動にその影響が見られる。しかし、イギリスでの運動が全く同じように海外でも展開されていたわけではなく、それぞれの国の抱えた課題、さらに人々の感性や価値観の違いなどによって、運動の理念やそこで創られるデザインの性質は変化していった。

 

ジョン・ラスキンはイギリスで活躍した美術評論家、社会思想家であり、ウィリアム・モリスだけではなく、インドのガンジーなどにも影響を与えた人物である。彼は『ヴェネチアの石』のなかで、ヴェネチア建築を批評した。彼は「装飾は建築の主要部分である」と主張した。これは当時のウィリアム・モリスにとって衝撃的であった。同時代を生きるアドルフ・ロースは「装飾は罪悪である」と述べていたこともあったからであろう。ウィリアム・モリスラスキンの考えを受けて、建築は人間が生きていく環境・人間による創造や生活上の営みなどの人間世界の全ての要素を凝縮したものであると捉えた。これは正に先に記したアーツアンドクラフツ運動の意義に直結していることを示唆している。

 

 

 

参考文献